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水戸地方裁判所 平成5年(行ウ)20号 判決 1996年2月28日

原告 破産者株式会社常陸観光開発破産管財人 大橋堅固

被告 日立税務署長

代理人 浜秀樹 田部井敏雄 川田武 小田寛三 武子健 ほか五名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  主位的請求

(一) 被告が破産者株式会社常陸観光開発に対して平成四年四月二八日付でした同会社の平成三年二月一日から同年一〇月二九日までの課税期間の消費税に係る過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

2  予備的請求

(一) 被告が平成四年五月一五日付支払決議書によりした次の充当処分は無効であることを確認する。

(1) 原告が平成四年四月一三日にした破産者株式会社常陸観光開発の課税期間平成三年二月一日から同年一〇月二九日までの消費税の修正申告に基づく還付金二九九三万八八五五円及び還付加算金六七万六四〇〇円に関する金三〇六一万五二五五円の過少申告加算税への充当

(2) 原告が平成四年一月四日にした破産者株式会社常陸観光開発の課税期間平成三年二月一日から同年一〇月二九日までの源泉所得税還付請求に基づく還付金四六四五万三一七八円中金三八七万六二四五円に関する右同額の過少申告加算税への充当

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  主位的請求

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2  予備的請求

(一) 本案前の答弁

(1) 原告の予備的請求に係る訴えを却下する。

(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

(二) 本案に対する答弁

(1) 原告の請求を棄却する。

(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  主位的請求原因

1  株式会社常陸観光開発は平成三年一〇月二九日水戸地方裁判所において破産宣告を受け(以下、同会社を「本件破産会社」という)、原告がその破産管財人に選任された。

2  原告は、被告に対し、平成四年一月四日本件破産会社の平成三年二月一日から同年一〇月二九日までの課税期間(以下「本件課税期間」という)の消費税の確定申告(以下「本件確定申告」という)を次のとおり行った。

課税標準額    金一億六二七四万三〇〇〇円

消費税額        金四八八万二二九〇円

控除対象仕入税額 金二億六四九三万二七四五円

控除不足還付税額 金二億六〇〇五万〇四五五円

3  原告は、その後の被告の税務調査の結果に基づき、被告に対し、平成四年四月一三日次のとおり修正申告(以下「本件修正申告」という)をした。

課税標準額    金一億六二七四万三〇〇〇円

消費税額        金四八八万二二九〇円

控除対象仕入税額   金三四八二万一〇九五円

控除不足還付税額   金二九九三万八八〇五円

4  被告は、本件修正申告により控除不足還付税額が二億六〇〇五万〇四五五円から二九九三万八八〇五円に減少したことから、平成四年四月二八日付をもって、本件破産会社に対し、その減少額二億三〇一一万一六五〇円につき三四四九万一五〇〇円の過少申告加算税(以下「本件過少申告加算税」という)を賦課する旨の処分(以下「本件課税処分」という)を行った。

5  しかし、本件課税処分は、次のとおり法律の解釈・適用を誤った違法なものであり、取消しを免れない。

(一) 本件課税処分は、国税通則法六五条の規定に基づくものであるところ、同条一項は、過少申告加算税を算定する基礎となるべき金額を「第三十五条第二項の規定により納付すべき税額」と明記している。そして、同法三五条二項は、申告納税方式による国税等の納付義務及び納付の場合の額並びに納付の期限を定めているにすぎない。それ故、六五条一項の定める過少申告加算税算定の基礎となるものは、その文言どおり「納付すべき税額」と解すべきであり、その結果、「納付すべき税額」が存在しなければ、過少申告加算税は賦課できないと解すべきである。

(二) 然るに、本件修正申告においては、本件確定申告と比して控除不足還付税額が二億六〇〇五万〇四五五円から二九九三万八八五五円に減少したものであって、単に国が本件破産会社に還付する金額が減少したにすぎない。したがって、本件破産会社には国に「納付すべき税額」が存在しなかったのであるから、本件においては、国税通則法六五条の規定を適用することはできず、本件課税処分は違法である。

(三) 被告は、国税通則法三五条二項により納付すべき税額とは、同法一九条四項三号ロに規定する修正申告前の還付金の額に相当する税額(還付税額)が修正申告により減少する場合には、その減少する部分の税額をいう、との見解のもとに本件課税処分をしたが、右見解は不当である。

(1) 国税通則法三五条二項は、申告納税方式による国税等の納税につき、納付の額及び期限を定める規定であり、それは、納付すべき税額があることを前提にして初めて意味を持つ規定であって、いかなる意味においても「納付すべき税額」の中に「還付金の額に相当する税額が修正申告により減少する場合には、その減少する部分の税額」(同法一九条四項三号ロに定める額)が含まれていると解することはできない。これは、同法三五条二項本文に「次の各号に掲げる金額に相当する国税の納税者は、その国税を……国に納付しなければならない」との文言があることからも明らかである。なお、三五条二項一号には一九条四項三号全体が引用されているが、それに引き続き括弧書きで「修正申告により納付すべき税額」と注記されている。このことからも明らかなように、一九条四項三号は、現実に納付すべき税額が存在するときに、その納付額の範囲を示すために引用されたもので、かつ、この限度で意味を持つにすぎないものである。

(2) また、「納付すべき税額」を被告の見解のように解することは、国税通則法二条六号の規定とも矛盾する。即ち、同条六号は、納税申告書について、「申告納税方式による国税に関し国税に関する法律の規定により次に掲げるいずれかの事項その他当該事項に関し必要な事項を記載した申告書」と定義し、その記載されるべき事項として「ニ納付すべき税額」と「ホ還付金の額に相当する税額」とを併記している。このように、国税通則法は、「納付すべき税額」と「還付金の額に相当する税額」とを異なる概念のものとして使用しているのであり、同法六五条一項の規定する「納付すべき税額」の中に「還付金の額に相当する税額」即ち還付税額が含まれないことは明らかである。

(3) 本件のように確定申告により還付税額が存在する旨を申告した後に、その税額が過大であったとしてこれを減少させる修正申告をした場合において、「納付すべき税額」が存在するというためには、次のような立論をする外ないであろう。

<1> 最初の確定申告により原告は、還付税額(本件の場合二億六〇〇五万〇四五五円)に相当する債権を取得した。

<2> その後の修正申告により還付税額をより少ない額(本件の場合二九九三万八八〇五円)に減少させる旨の申告をしたことにより、原告は、その差額(本件の場合二億三〇一一万一六〇〇円)を納付すべき債務を負うに至った。

<3> 右債権と債務は、修正申告後も併存する状態で存続した。

しかし、右立論は、原告が本件修正申告により、差額については請求を撤回し、減少後の還付税額のみを権利として主張する意思であったことは、修正申告書の文面から明らかであることから、到底支持し難いものといわなければならない。

(4) 更に、過少申告加算税は、無申告加算税とともに申告納税制度を適正に機能させる目的を持つものであり、納付すべき税額があるのにこれを過少に申告するのは、無申告の場合と同様に申告義務違反があることは明白であるから、一定の制裁を課すのは当然である。しかし、還付金があるにすぎない場合には、これを申告するかどうかは納税者の選択に委ねることも制度上十分考えられるところである。現行法上消費税については、納付すべき税額がなくとも確定申告をすることになっているが(消費税法四五条一項)、前記のことからすれば、還付金の額を過大に申告したとしても、申告納税制度の根幹をなす申告義務(納付すべき税額があるときに、これを正しく申告すべき義務)について違反があるとまではいうことができず、また、実質的にも、還付請求権を過大に申告した場合には、所轄庁の調査等によって事前に誤りを正す機会があるので、申告者に常に利益が生じるとは限らないのである。現に本件においては、被告の調査の結果、還付が現実には行われなかったのである。してみると、国税通則法六五条一項が、現実に「納付すべき税額」が存在する場合に限って、過少申告加算税を課すこととしたのは十分理由のあることであって、これを安易に納付すべき税額が存在せず、単に還付税額が減少するに過ぎない場合にも拡張適用することは許されない。

6  次に、本件確定申告は、以下のような特殊な事情のもとで行われたものであり、原告が本件確定申告をするにあたって、本件破産会社が株式会社熊谷組(以下「熊谷組」という)に支払った七三億一三〇〇万円と生駒植木株式会社(以下「生駒植木」という)に支払った五億八七五〇万円に係る消費税額二億三〇一一万一六五〇円を本件課税期間の控除対象仕入税額に算入できると判断したことには、国税通則法六五条四項の「正当な理由」があったというべきであるから、これを無視して過少申告加算税を賦課した本件課税処分は、この点からも違法である。

(一) 原告は、本件破産会社が平成三年一〇月二九日水戸地方裁判所において破産宣告を受けると同時に破産管財人に選任され、公正中立の立場で独自に破産財団の管理運営にあたってきた。本件確定申告及び本件修正申告もこの管財業務の一環であり、法の許す範囲内で財団を最大限に増殖させるために必要かつ有益であると判断して行ったものである。

(二) 本件破産会社の破産事件は、負債総額一二〇〇億円余、債権者総数五万人余という大型のものであったことから、原告は、常置代理人二名を選任し、その補佐を受けて管財業務にあたったが、この破産事件が自己破産に係る事案ではなくゴルフ会員権債権者が申し立てたものであり、しかも関係者の中に株式会社三輝をめぐる法人税法違反被疑事件の捜査の対象になっている者が含まれていたこともあって、原告は、本件破産会社の代表者らから積極的に説明を受ける等の協力を得ることもできず、従業員も破産宣告前に離散状態にあり、本件破産会社の経理等について引き継ぎを受けることもできなかった。こうした中、原告は、弁護士業務の大半をこの破産事件に投入し、寸暇を惜しんで管財業務に取り組んだが、その業務は膨大なものであった。

(三) その業務の一つとして、本件破産会社の財産状況を調査して貸借対照表と財産目録を作成する必要があったので、原告は、協和監査法人にこの業務を委託した。同監査法人は、直ちに所属の公認会計士を動員して調査を開始したが、次の理由からその作業は難航した。

(1) 本件破産会社は、平成三年一月二一日まで株式会社三輝によって実質的に所有されており(その後ケン・インターナショナル株式会社の子会社ラス・パルデスに買い戻し条件付きで譲渡)、代表者も平成三年八月一五日まで株式会社三輝の代表者丸西輝男が兼務していた(その後水野健の部下山田武志と交代)。このため本件破産会社は、実質的な事務部門を有さず、株式会社三輝が経理業務を代行していた。しかし、その株式会社三輝は、平成二年一一月一六日、同年一二月一七日及び平成三年九月五日の三回にわたって法人税法違反の容疑で国税局の差押えを受けた他、同年九月一〇日には訪問販売法違反容疑で警視庁の捜索を受け、ほとんど全ての会計帳簿、伝票書類は国税局、警視庁に押収され、本件破産会社の手元に残ったのは、ごく僅かで断片的な帳簿と伝票書類だけであった。

(2) 原告は、東京地検の検事を通じ、関係書類の閲覧、謄写の可能性を打診したが、押収書類の量が膨大であるうえ整理が進んでいない模様であったことから、原告としても、手の付けようのないまま本件確定申告の時期を迎えざるを得なかった。

(3) 本件破産会社の役員は頻繁に交代して責任の範囲も不明確で、原告らは、元役員及び従業員からの事情聴取に努めたが、ほとんど実現しなかった。このため公認会計士らは、不十分ながら株式会社三輝の役員、従業員らの協力を得て、断片的な書類から残高試算表を作成し、これに基づき一応の貸借対照表を作成したが、それも不完全なものでしかなかった。

(四) このように基礎となるべき資料が不足している状況の中で本件確定申告を迎えたのであるが、原告が本件修正申告で除外した控除対象仕入れを本件確定申告において本件課税期間の課税仕入れに該当すると判断した根拠の主要な事情は、次のとおりである。

(1) 原告は、破産管財人として平成三年一〇月二九日本件破産会社のゴルフ場仮事務所に赴き、同ゴルフ場敷地、同敷地上の建物及び所在物件一切が原告の占有に帰したことを公示したこと(この点については、熊谷組その他の工事関係者も異議を述べなかった)

(2) この占有に先立ち平成三年九月一九日、水戸地方裁判所により保全処分が発せられ、ゴルフ場が執行官保管とされていたため、原告は、これを承継したものと考えられたこと

(3) 当時熊谷組が施工していたゴルフコース造成工事は九七・五パーセント、植栽工事は九八・五パーセント、クラブハウス建築工事は九一パーセントが完成し、生駒植木が行っていた造形植栽及び造園工事は事実上完了していたこと

以上のような事実関係のもとで、原告が工事関係者から工事の対象物を事実上引き渡しを受けたと判断したことは、誠にやむを得ないことであった。

(五) 本件確定申告は消費税の還付に関するもので、本件破産会社が申告書記載の課税仕入れをして、これに対応する消費税を建設会社に支払ったことは、被告も争っていない。いずれにしても、本件確定申告で還付請求した消費税に相当する額が本件破産会社に還付されることは間違いないのであって、仮に本件確定申告に誤りがあったとしても、それは課税仕入れ計上の時期を誤ったに過ぎない。このように本件は、架空の仕入れを計上して、消費税の還付名下に不当な利益を得ようとした例とは根本的に異なるのである。

(六) したがって、仮に、本件破産会社が熊谷組等に払った工事代金を、原告が本件課税期間の控除対象仕入税額に算入できると判断したことに誤りがあったとしても、その誤りについては、国税通則法六五条四項にいう「正当な理由」が存在していたというべきである。

7  また、原告は、被告係官の行政指導に従って本件修正申告をしたものであり、本件課税処分は信義誠実の原則に反し、違法である。即ち、

(一) 原告は、本件確定申告後被告から呼び出しを受け、法人課税第一部門の係官から、仕入れに係る消費税額を二億六四九三万二七四五円とするのは誤りであり、三四八二万一〇九五円とすべきであるとの指摘を受けた。原告は、係官の指摘には異論があったので、「税務署と工事の引渡時期についての見解が違うが、後日税務署の見解でも引渡しがあったと認められる時点で、申告すれば還付を受けられるのであれば、そうしましょう。」と述べたが、係官もこれに格別異論を述べなかった。

(二) 右行政指導の際、係官からは、将来過少申告加算税が課されるなどということは全く説明されず、むしろ、修正申告に応じれば、減額修正した部分についても還付が受けられるかの如き説明を受けた。そして、原告は、これを信頼したからこそ本件修正申告に応じたのである。

(三) 右のような経緯にもかかわらず、被告が指導に応じた原告の本件修正申告を捉えて本件過少申告加算税を賦課するのは、その分本件破産会社が受け得る還付金の額が減少するのと同じ結果(後記のとおり、被告は、本件修正申告によっても本件破産会社に還付されるべき還付金を本件過少申告加算税に充当した)を招く点で係官の説明と矛盾し、原告の信頼を裏切るものであって、信義則上許されるものではない。

8  よって、原告は、被告に対し主位的に本件課税処分の取消しを求める。

二  予備的請求原因

1  主位的請求原因1ないし4に同じ

2  被告は、本件課税処分による本件過少申告加算税について、平成四年五月一五日付支払決議書により次のような充当処分(以下「本件充当処分」という)を行った。

(一) 原告が平成四年四月一三日にした本件破産会社の本件課税期間に係る消費税の本件修正申告に基づく還付金二九九三万八八五五円及び還付加算金六七万六四〇〇円に関する金三〇六一万五二五五円の本件過少申告加算税への充当

(二) 原告が平成四年一月四日にした本件破産会社の本件課税期間に係る源泉所得税還付請求に基づく還付金四六四五万三一七八円中金三八七万六二四五円に関する右同額の本件過少申告加算税への充当

その結果、原告は、本来本件破産会社が還付を受けることができる筈であった還付金の支払いを受けることができなくなった。

3  ところで、本件破産会社に本件過少申告加算税を賦課した本件課税処分は違法であるが、仮に然らずとしても、本件充当処分は、次の理由により無効である。

(一) 過少申告加算税が破産法四七条二号にいう「国税徴収法又ハ国税徴収ノ例ニ依リ徴収スルコトヲ得ヘキ」ものであるとしても、本件過少申告加算税たる国税債権(以下「本件国税債権」という)は「破産宣告後ノ原因ニ基ク」ものであって、しかも「破産財団ニ関シ生シタルモノ」には当たらないので、同法四七条本文に定める「財団債権」に該当しない。即ち、

(1) 本件課税処分は、原告が平成四年一月四日にした本件確定申告の還付申告が過大であったことを理由とするものである。しかし、本件破産会社が破産宣告を受けたのは平成三年一〇月二九日であるから、仮令本件確定申告が本件破産会社の破産宣告の日までの課税期間に係るものであっても、本件課税処分が破産宣告後の申告に対するものであることは明らかであり、これによる本件国税債権は「破産宣告後ノ原因ニ基ク」ものであるといわなければならない。

(2) 最高裁の判例(昭和四三年一〇月八日第三小法廷判決民集二二巻一〇号二〇九三頁。昭和六二年四月二一日第三小法廷判決民集四一巻三号三二九頁)によれば、「破産財団ニ関シ生シタルモノ」とは「破産債権者において共益的なものとして共同負担するのが相当であるものに限る」趣旨であるとされ、より具体的には「破産財団ニ関シ生シタル」請求権とは、「破産財団を構成する各個の財産の所有の事実に基づいて課せられ、あるいはそれら各個の財産のそれぞれからの収益そのものに対し課せられる租税その他破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課のごときを指すものと解するのを相当とする」(右昭和四三年最高裁判決)とされ、あるいは「破産財団を構成する財産の所有・換価の事実に基づいて課せられ、あるいは右財産から生じる収益そのものに対して課せられる租税その他破産財団管理上当然その経費と認められる公租公課のごときものを指すものと解するのを相当とする」(右昭和六二年最高裁判決)とされている。

ところで、租税法上の各種加算税は、国税通則法等に定める租税行政秩序に違反した場合に課せられる「租税過料」であり、本件過少申告加算税も前記のとおり原告がした行為に対する制裁である。したがって、このような破産管財人の行為に対する制裁としての過少申告加算税が、破産財団を構成する財産の所有・換価の事実に基づいて課せられるものでなく、また右財産から生じる収益そのものに対して課せられるものでもないことは明らかである。そして、それでは、破産財団管理上当然その経費と認められる公租公課のごときものに含まれるかというと、そうではなく、たまたま過少申告をしたことにより課せられる偶然性の強いものであるから、これに当たらないことは明らかである。更に、前記最高裁の判決の基本的考え方に遡って考えれば、過少申告加算税は、いかなる意味においても破産債権者から見て、共益的なものということはできない。

むしろ過少申告加算税が一種の行政上の秩序罰たる性質を有することからすれば、本件国税債権は、破産法四六条四号中の「追徴金」又は「過料」に準じるものとして、劣後的破産債権又はこれに準じる扱いを受けるのが相当である。

(二) 国税通則法基本通達五七条関係充当4(破産宣告があった場合の還付金等の充当)は、「破産財団に属する還付金等は、破産手続によることなく財団債権である未納の国税に充当するものとする」と規定している。

しかし、右規定自体は妥当なものとしても、本件国税債権は前記のとおり財団債権ではないので、被告のした本件充当処分は破産法及び右通達に反する違法なものであることが明らかである。

そこで進んで、右違法な行為の瑕疵の程度について検討してみると、被告は、本件破産会社(破産財団)に還付金及び同加算金を還付したうえで、本件国税債権については破産債権者として他の破産債権者と平等な立場で配当を受けるべきであるのに、本件充当処分を行うことによって、いわば本件国税債権を優先的に配当を受けたのと同様の結果を得ることとなった。しかし、これは、一般の債権者に深刻な影響を与え、その瑕疵は極めて重大である。

こうして、本件においては、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌しても、なお、本件充当処分の不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被処分者に不利益を甘受させることが著しく不当と認められる例外的な事情があるというべきであるから、本件充当処分の前記瑕疵は、取消訴訟の提起を待つまでもなく、同処分を当然無効ならしめるものと解すべきである。

4  よって、原告は、被告に対し、予備的に本件充当処分の無効であることの確認を求める。

三  主位的請求原因に対する被告の認否

1  主位的請求原因1ないし4の事実は認める。

2  同5のうち、本件課税処分が国税通則法六五条の規定に基づくものであること、被告が、同法三五条二項により納付すべき税額とは、同法一九条四項三号ロに規定する修正申告前の還付金の額に相当する税額(還付税額)が修正申告により減少する場合には、その減少する部分の税額をいう、との見解のもとに本件課税処分をしたことは認めるが、本件課税処分が違法であるとの主張は争う。

3  同6のうち、本件破産会社が平成三年一〇月二九日水戸地方裁判所で破産宣告を受け、原告が破産管財人に選任されたこと、国税局が本件破産会社の帳簿書類の一部を差し押さえたことは認めるが、本件課税処分が国税通則法六五条四項の「正当な理由」の存在を無視した違法なものとの主張は争い、その余の事実は不知。

4  同7のうち、本件課税処分が信義誠実の原則に反し違法であるとの主張は争う。同(一)の事実は認める。同(二)のうち、被告所部係官が修正申告後に過少申告加算税が賦課される旨の説明を原告にしていないことは認めるが、その余の事実は否認する。同(三)のうち、被告が本件修正申告に係る還付金を本件過少申告加算税に充当したことは認めるが、その余の主張は争う。

四  予備的請求に対する被告の本案前の主張

仮に、原告が主張するように本件国税債権が財団債権に該当せず、「劣後的破産債権又はこれに準じる扱いを受けるのが相当」であるとして、本件充当処分が無効であったとしても、本件国税債権が消滅するわけではなく、国が本件破産会社に対して国税債権を有するという法律関係は何ら変動するものではないのであって、せいぜい、一般債権者の配当金に影響が出るにとどまり、原告の予備的請求が認容されても、本件破産会社や原告自身には法的に何らの利益も生じない。

したがって、原告の予備的請求に係る訴えは、その利益がなく、却下を免れない。

五  予備的請求原因に対する被告の認否

1  予備的請求原因1に対する認否は、主位的請求原因1ないし4に対する認否に同じ

2  同2の事実は認める。

3  同3の主張は争う。

六  被告の主張

1  本件過少申告加算税の金額及びその計算根拠

本件課税処分に係る過少申告加算税の金額及び計算根拠は、次のとおりである。

(一) 過少申告加算税の基礎となる税額   二億三〇一一万円

右金額は、本件修正申告により納付すべき税額、すなわち、本件課税期間に係る本件確定申告書記載の控除不足還付税額二億六〇〇五万〇四五五円と本件修正申告書記載の控除不足還付税額二九九三万八八〇五円との差額(ただし、国税通則法一一八条三項の規定に基づき一万円未満の端数切捨て後のもの)である。

(二) 過少申告加算税の金額      三四四九万一五〇〇円

右金額は、国税通則法六五条一項、二項の定めるところにより計算した過少申告加算税の額であり、次の(1)及び(2)の金額の合計額である。

(1) 国税通則法六五条一項により計算した金額 二三〇一万一〇〇〇円

右金額は、同条二項の定めるところにより、同条一項により、右(一)の金額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出したものである。

(2) 右(1)の金額に加算すべきもの      一一四八万〇五〇〇円

右金額は、同条二項の定めるところにより、右(一)の金額から五〇万円を控除後の金額(二億二九六一万円)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出したものである。

2  本件課税処分の適法性

(一) 原告が行った本件確定申告及び本件修正申告について

(1) 消費税法は、事業者について、課税期間(同法一九条、法人については事業年度)ごとに、各課税期間の末日の翌日から二月以内に、次のイないしホに掲げる事項等を記載した申告書を税務署長に提出しなければならないと規定する(同法四五条一項)

イ 課税標準額(同項一号)

ロ 課税標準額に対する消費税額(同項二号)

ハ 右ロの消費税額から控除されるべき消費税額の合計額(控除税額)(同項三号)

ニ 右ロの消費税額から右ハの消費税額の合計額を控除した残額(同項四号)

ホ 右ロの消費税額から右ハの消費税額を控除してなお不足があるときの当該不足額(控除不足還付税額)(同項五号)

そして、本件確定申告に係る右金額は次のとおりである(なお、原告は、控除税額が課税標準額に対する消費税額を上回るとして、控除不足還付税額を本件確定申告書に記載したものである)。

ヘ 課税標準額            一億六二七四万三〇〇〇円

ト 課税標準額に対する消費税額       四八八万二二九〇円

チ 控除税額(控除対象仕入税額)   二億六四九三万二七四五円

リ 控除不足還付税額         二億六〇〇五万〇四五五円

(2) ところで、原告は、本件確定申告において、本件破産会社が建設を進めていた茨城カントリークラブの造成工事及びクラブハウス建築工事につき、熊谷組に対して支払った七三億一三〇〇万円、及び同造園工事につき、生駒植木に対して支払った五億八七五〇万円が、本件課税期間に係る課税仕入れ(消費税法二条一項一二号)に当たるとして、右合計額(七九億〇〇五〇万円)に係る消費税額(二億三〇一一万一六五〇円、右合計額の一〇三分の三相当額)を、仕入に係る控除税額に含めて計算した。これに対し被告は、平成四年二月五日から本件破産会社の消費税に係る税務調査を実施した。その結果、右各工事については、本件破産会社に対する資産の引渡し又は役務の提供が本件課税期間の終了時(平成三年一〇月二九日)までにおいて完了しておらず、本件課税期間に係る課税仕入れには当たらないと認められたため、原告に対し、右各工事に係る消費税額(二億三〇一一万一六五〇円)を本件課税期間においては控除できない旨を指摘し、修正申告を慫慂した。そうしたところ、原告は、これに応じ、次のとおりの内容の本件修正申告書を被告に対して提出したものである。

ヌ 課税標準額            一億六二七四万三〇〇〇円

ル 課税標準額に対する消費税額       四八八万二二九〇円

ヲ 控除税額(控除対象仕入税額)     三四八二万一〇九五円

ワ 不足還付税額             二九九三万八八〇五円

そして、右修正申告の結果、控除不足還付税額が二億三〇一一万一六〇〇円(前記リと右ワとの差額)減少することとなったものである。

(二) 修正申告について

国税通則法は、納税申告書(同法二条六号参照)を提出した者が、先の納税申告書に記載した還付金の額に相当する税額が過大である場合は、税務署長による更正があるまでは、その申告に係る課税標準等又は税額等を修正する納税申告書を税務署長に提出することができるとしている(同法一九条一項)。

また、同法三五条は、申告納税方式による国税について納期限を定めるとともに、納税者がそれを現実に納付すべきことを命ずる規定であると解されるところ、修正申告については、修正申告書を提出した日を納期限とし、修正申告書に記載した同法一九条四項三号に規定する各金額を納付すべきことを命じるものである(同法三五条二項一号)。そして、同法一九条四項三号に記載すべき金額とは、同号イないしハに掲げる各金額であるところ、本件修正申告のように還付金の額が減少するものであるときは、右減少する部分の税額を修正申告書に記載することとなる(同号ロ)。

そして、原告は、本件修正申告において、前記(一)のとおり、控除不足還付税額、即ち、同法二条六号ホに規定する「還付金の額に相当する税額」を修正したものであり、右修正により減少する還付金の額は本件修正申告書の「差引納付税額」欄の額二億三〇一一万一六〇〇円である。

要するに、本件破産会社は、原告がした本件修正申告により、本件修正申告書の提出のあった平成四年四月一三日を納期限とし、還付金の減少額である二億三〇一一万一六〇〇円を国に対して納付すべきことが確定したのである。

(三) 過少申告加算税について

期限内申告書(還付請求申告書を含む)が提出された場合において、修正申告書の提出があったときは、かかる修正申告に基づき国税通則法三五条二項の規定により納付すべき税額(増差税額)の一〇パーセントの金額の過少申告加算税が課され(同法六五条一項)、また、右増差税額が期限内申告税額又は五〇万円のいずれか多い金額を超える場合には、その超える部分の金額の五パーセントに相当する金額が加算されることとなる(同条二項)。ただし、修正申告が、その申告に係る租税についての調査があったことによりそれについて更正があるべきことを予知してなされたものでないときは、過少申告加算税は課税されず(同条五項)、また、過少申告加算税の計算の基礎となった事実のうちに、当初の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、過少申告加算税の計算の基礎となる税額から、右正当な理由があると認められる事実に基づく税額を控除して、過少申告加算税の金額が計算される(同条四項)。

(四) 本件過少申告加算税の適法性について

前記(二)のとおり、本件過少申告加算税の算定において、国税通則法六五条一項に規定する同法三五条二項の規定により納付すべき税額は、二億三〇一一万一六〇〇円(同法一一九条一項の規定に基づき一〇〇円未満の端数切捨て後のもの)である。

そして、過少申告加算税は、同法三五条二項により国に納付すべきことの確定した税額を基礎(課税標準)として、同法六五条一項、二項に基づき計算することとなるのであるから、前記1・(一)のとおり、二億三〇一一万円を過少申告加算税の基礎となる税額として算定した本件課税処分は適法である。

3  主位的請求原因に対する反論

(一) 主位的請求原因5について

(1) 原告は、同法三五条二項は、申告納税方式による国税の納付につき、納付の額及び期限を定めた規定ではあるが、実際に納付すべき税額が存することを前提とする規定であるから、「納付すべき税額」には、同法一九条四項三号ロに規定する「還付金の減少する部分の税額」は含まれず、したがって、本件のように修正申告によって還付金の額が減少するにすぎない場合については、同項が定める「納付すべき税額」は存在しないと主張する。

(2) しかし、前記のとおり、本件においては、国税通則法六五条一項、三五条二項の規定により二億三〇一一万一六〇〇円の「納付すべき税額」が存在しているのであるから、原告の主張は失当である。

そもそも、過大な還付金の支払を税務署長に対して求めることとなる納税申告(還付申告)は、納付額が過少であった納税申告(納付申告)と同様、納税申告書に記載すべき課税標準等又は税額等(同法一九条一項参照)に誤りがあったことに起因するものである。かかる場合、前記のとおり、納税者には、更正があるまでは、納付申告、還付申告のいずれの場合においても、修正申告により納税者自身が申告額を是正する途を設ける一方、同法は、申告納税制度を適正に機能させる観点から、納付申告、還付申告の区別をすることなく、同法一九条四項三号に掲げる各金額を同法六五条一項に規定する過少申告加算税の基礎税額として過少申告加算税額を課すこととするものであり、この点は文理上においても明らかであって、原告の主張は、国税通則法の定める「納付すべき税額」を誤って解釈しているものである。

(3) なお、国税通則法(二条六号ニ、一九条四項三号イ、三五条二項一号、六五条一項)にいう「納付すべき税額」の意味は、それぞれ次のとおりである。

I 国税通則法二条

国税通則法二条六号ニにいう「納付すべき税額」とは、納税申告書に記載すべき事項としての納付すべき税額であり、同号イに定める課税標準(同号ロに定める課税標準から控除する金額があるときはこれを控除したもの)に税率を適用して算定した金額(同号ヘに定める税額控除又は税額の減免がある場合はこれを控除したもの)である。

消費税についていえば、<1>消費税法四五条一項の定めるところにより、同項二号(課税標準額に対する消費税額)に掲げる消費税額から同項三号(仕入に係る消費税額等)に掲げる消費税額を控除した残額に相当する消費税額(同項四号)が、国税通則法二条六号ニにいう「納付すべき税額」に当たり、<2>消費税法四五条一項二号に掲げる消費税額から同項三号に掲げる金額を控除してなお不足額がある場合の当該不足額(同項五号)が、国税通則法二条六号ホにいう「還付金の額に相当する税額」に当たることとなる。

II 国税通則法一九条

国税通則法一九条四項三号イにいう「納付すべき税額」は、同法二条六号ニにいう「納付すべき税額」と同様の意味で使われている。

即ち、同法一九条四項三号は、期限内申告書(同法一七条)等によって確定された税額等(「税額等」の定義は同法一九条一項括弧書きを参照)を増額(還付金等の場合は減額)変更するための納税申告書である修正申告書について(同条三項)、その記載事項等を定める規定であるところ、同条四項三号イは、前記Iの<1>で述べたような「納付すべき税額」が増加する場合にはその増加する部分の税額を、同号ロは、前記Iの<2>で述べたような「還付金の額に相当する税額」が減少する場合にはその減少する部分の税額を修正申告書に記載するよう命ずる規定である。

III 国税通則法三五条

申告納税方式による国税(国税通則法一六条一項一号)に係る税額の確定手続きとしては、期限内申告(同法一七条)、期限後申告(同法一八条)、修正申告(同法一九条)、更正(同法二四条)及び決定(同法二五条)の各手続きが国税通則法に定められているところであるが、同法三五条は、右手続きにより確定した国税の納付を命ずるとともに、かかる税額の納付期限について規定しているものである。このうち、同条二項一号でいう「納付すべき税額」が修正申告との関係について意味するところは次のとおりである。

A 二項一号の一番目の括弧書きについて

同条二項一号は、修正申告によって納付すべき税額及び納期限を規定するものであり、同号記載の「(修正申告により納付すべき税額)」の文言は、同法一九条四項三号を説明しているものである。即ち、ここでいう納付すべき税額とは修正申告書に記載した同号に掲げる金額であるところ、同号には、イ「その申告前の納付すべき税額がその申告により増加するときは、その増加する部分の税額」、ロ「その申告前の還付金の額に相当する税額がその申告により減少するときは、その減少する部分の税額」、ハ「所得税法……の規定により還付する金額に係る……還付加算金があるときは、その還付加算金のうちロに掲げる税額に対応する部分の金額」と規定しているから、「修正申告により納付すべき税額」とは、右イないしハの全部を指すことになる。したがって、ここにいう「納付すべき税額」の意味するところは、同法二条六号ニ、一九条四項三号イにいう「納付すべき税額」とは異なり、「修正申告により納付すべき税額」、いわゆる増差税額を意味することとなる。

B 二項一号の二番目の括弧書きについて

ここにいう「納付すべき税額」は、右Aとは異なり、前記I及びIIでいうところの「納付すべき税額」と同様の意味で用いられている。

即ち、修正申告前において前記I及びIIでいうところの「納付すべき税額」が存在しない場合において、修正申告によって初めて右「納付すべき税額」が発生した場合において、かかる「納付すべき税額」の部分の税額についても納付する義務があることを定めているものである。

なお、「修正申告書の提出により納付すべき税額が新たにあることとなった場合」には、右のとおり修正申告前には「納付すべき税額」(同法二条六号ニ)がなかった(零円)がその修正申告により納付すべき税額があることとなった場合のほか、その修正申告により修正申告前の「還付金の額に相当する税額」(同号ホ)(<1>)が零となるだけでなく、さらに、右にいう「納付すべき税額」(<2>)があることとなった場合とがある。後者の場合、二番目の括弧書きにいう「当該納付すべき税額」とは、修正申告前の還付金の額(右<1>)に、その修正申告により新たに納付すべき税額(右<2>)を合計した額となる。

IV 国税通則法六五条

同条一項にいう「納付すべき税額」とは、同法三五条二項柱書きの規定により納付しなければならない税額を意味するものである。修正申告についていえば、同法三五条二項一号に定める金額(即ち、同法一九条四項三号イないしハに掲げる金額、ただし、その修正申告によって納付すべき税額が新たにあることとなった場合はその税額を加えた金額)が、ここでいう「納付すべき税額」ということとなる(同法六五条一項にいう「納付すべき税額」は、それのみ単独で使われているのではなく、「同法三五条二項の規定により納付すべき税額」の意味で使われていることに注意を要する)。

したがって、ここにいう「納付すべき税額」は、同法一九条四項三号に掲げるイないしハの全部を指すから、それには、還付金の額に相当する税額が減少する場合の当該減少部分の金額が当然に含まれることとなる。

このことは、同法六五条四項の規定からも明らかである。即ち、同項は、修正申告又は更正により納付すべき税額の計算の基礎となる事実のうちに、修正申告又は更正前の税額の計算の基礎としなかったことについて納税者の責めに帰すべからざる正当な理由がある場合の同条一項及び二項の適用除外に関する規定であるところ、同項は、修正申告前の税額の括弧書きとして、「(還付金の額に相当する税額を含む)」と規定し、修正申告によって減少する還付金の額に相当する税額に対する過少申告加算税についても、正当な理由があれば、政令で定める金額が控除されて賦課されることを明らかにしている。このような特別な場合の除外規定は、修正申告によって減少する還付金の額に相当する税額に対しても、右正当な理由がなければ過少申告加算税が賦課されることを当然の前提としているとしか理解のしようがないものである。

(4) 次に、原告は、還付金の額を過大に申告したとしても、申告納税制度の根幹をなす申告義務について違反があるとまではいうことができず、また、税務署長が事前に誤りを直す機会があるのであるから、納税者に常に利益が生じるとは限らないし、現に本件においては、還付が現実には行われなかったとして、かかる場合にまで、過少申告加算税が賦課されるべきではない旨主張する。

(5) しかしながら、還付申告だけをことさら納税申告と別の意味にとらえ、還付申告による還付金額を過大に請求する納税者に対しては過少申告加算税額が賦課されるべきでない旨の原告主張は独自の見解にすぎないものといわざるえない。過少申告加算税は、適正な申告をしない納税者に対して行政上の制裁を加え、申告秩序の維持を図るものであるから、不適正に還付金が過大となった場合において、これを行政制裁の対象から除外する理由はない。

また、原告の主張に合理性のないことは、次のような理由からも明らかである。即ち、税務署長は還付金があるときは遅滞なく金銭で還付しなければならない(国税通則法五六条一項)ところ、申告納税制度のもとにおいて、提出された還付申告書の内容をつぶさに検討し、そのすべての適否を的確かつ迅速に判断することは極めて困難といわざるを得ない(殊に、本件のように、課税仕入れに当たるか否かの判断を要する場合には、調査を行わずしてかかる判断をなすのは不可能といえる)。してみれば、納税者が過大な還付金の支払を求める還付申告をした場合であっても、その過大であることが露見し還付金の支払がなされなかったときは、過少申告加算税が賦課されないとしたならば、過大な還付申告は、俗にいう「駄目でもともと、見付からなければもうけ物」ということになってしまい、還付申告について適正なる納税申告が担保し得ないこととなるのである。であるからこそ、国税通則法は、申告納税制度の適正化の観点から、前記のとおり、納付申告・還付申告を区分することなく、申告の内容に誤りがある場合には、過少申告加算税を賦課することとしたものである。かかる制度の趣旨を全く踏まえることのない原告主張は失当というほかない。

なお、税務署長は、控除不足還付税額の記載のある確定申告書の提出があった場合で、かかる不足額が過大であると認められる事由があるときには、一時還付を留保し、修正申告書の提出又は更正処分をまって充当処理を行うこととなる(消費税法五二条、同法施行令六四条、国税通則法五七条一項)。即ち、確定申告の内容に誤りがあると認められる場合には、同法五六条の規定にかかわらず還付金の還付を見合わせることができるのである。本件はまさにかかる事由により還付金の還付がなされなかったのであり、自らの申告内容に誤りがあったにもかかわらず、現実に納付した税額がなかったという理由で過少申告加算税が賦課されるべきではない旨の原告主張は到底認めることはできない。

(二) 主位的請求原因6について

(1) 原告は、本件確定申告をするに当たって、本件破産会社が熊谷組に対して支払った七三億一三〇〇万円及び生駒植木に対して支払った五億八七五〇万円に係る消費税額二億三〇一一万一六五〇円を本件課税期間に係る控除対象仕入税額(消費税法三〇条)に算入できると判断したことについては、国税通則法六五条四項に規定する正当理由が存在するから、同条一項、二項の適用はない旨主張する。

(2) しかしながら、国税通則法六五条四項にいう正当理由がある場合とは、税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い修正申告し又は更正を受けた場合、あるいは災害又は盗難等に関し申告当時損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険等の支払を受け、若しくは盗難品の返還を受けたため修正申告し又は更正を受けた場合等、申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により納税者の故意過失に基づかずして当該申告額が過少となった場合の如く、かかる申告が真にやむをえない理由によるものであり、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合を指すものであって、納税者の税法の不知又は誤解に基づく場合は、これに当たらないと解されている(昭和五一年五月二四日東京高裁判決・税務訴訟資料八八巻八四一頁)。右に照らせば、本件修正申告について正当理由があったとは認められない。

即ち、<1>原告は、平成三年一〇月二九日の時点でいずれの工事も完成していなかったことを認識していたこと、<2>東京国税局収税官吏が本件破産会社の帳簿書類を押収したのは平成二年一二月一七日のことであって、本件課税期間に係る帳簿書類は押収していないこと、<3>東京国税局収税官吏が差押えた本件破産会社の帳簿書類についても、東京国税局に対して閲覧を申請すれば、閲覧及び謄写が可能であったこと、<4>本件破産会社が茨城県に対してゴルフ場造成工事の「工事中止届出書」を提出していたことは、報道機関によって一般にも報じられており、一般的にも知り得る状況にあったこと、といった事実を勘案すれば、本件確定申告の過誤は、原告が本件課税期間の消費税の申告をする際に、納税者が申告に当たって本来必要とされる注意義務を尽くしてさえいれば当然に回避できたものというべきであるから、本件においては、同項にいう正当理由が存在するとは到底いうことはできない。

(三) 主位的請求原因7について

(1) 原告は、本件修正申告に当たって被告所部係官から説明を受けた際、過少申告加算税の賦課に関する説明を受けておらず、また、右説明から、修正申告すれば減額修正した部分についても還付を受けられるものと理解して本件修正申告をしたのであるから、右説明に反する本件課税処分は信義則に反し違法である旨主張する。

(2) しかし、原告は、本件修正申告に当たって、被告所部係官から「修正申告に応じれば、減額修正した部分についても還付を受けられるかの如き説明を受けた」とするが、被告所部係官は、ゴルフ場の仕入に係る消費税を本件課税期間において仕入税額として控除することはできないが、後に引渡しがあったと認められる日の属する課税期間の仕入税額として控除することができるという趣旨の説明をしたのであるから、原告の右主張は事実誤認によるものであり失当というほかない。

また租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により課税処分を取り消すことができる場合とは、「法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該処分に係る課税を免れせしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。そして、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、のちに右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることとなったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の右表示に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであるといわなければならない」(昭和六二年一〇月三〇日最高裁第三小法廷判決・判例時報一二六二号九一頁)とされているのであるところ、これを本件についてみるに、そもそも被告所部係官が過少申告加算税の賦課決定を行わない旨表示した事実はなく、また、仮に明示としての表示がなかったために、原告が過少申告加算税を賦課されないと思い込んだとしても、右はそれ自体根拠のない思い込みであって過失がある。しかも、原告側には税務の専門家である税理士が関与していたから、本件修正申告に当たっては、当然に過少申告加算税の賦課についても考慮し、係官に確認すべきであったから、この点でも原告の責めに帰すべき事由がある。

4  本件充当処分の適法性

(一) 破産宣告前の原因によって生じた一切の国税は、財団債権となり破産債権に優先し、かつ、破産手続によらないで随時弁済を受けることができるとされており(破産法四七条二号、同四九条)、また、国税通則法基本通達五七条関係充当4(破産宣告があった場合の還付金等の充当)は、破産宣告があった場合の還付金の充当について、「破産財団に属する還付金等は、破産手続によることなく財団債権である未納の国税に充当するものとする」旨規定していることから、本件充当処分が適法になされたものであるか否かは、本件国税債権が財団債権に当たるか否かにより、判断されるのである。そして、これについては、過少申告加算税の債権が、本税たる租税債権に附帯して生ずるものであることから、「それが財団債権に当たるかどうかは、本税たる租税債権が財団債権性を有するかどうかにかかるものというべきである」と解されており(最高裁昭和六二年四月二一日第三小法廷判決・民集四一巻三号三二九頁)、本件国税債権についても、同様の基準によって判断されることとなる。

(二) 本件の場合、本件修正申告により納付すべきこととなった税額(本件修正申告書の「差引納付税額」二億三〇一一万一六〇〇円)が「本税たる租税債権」である。そして、右「本税たる租税債権」は、破産宣告を受けるまでの課税期間に係る本件修正申告により発生したのであるから、これが破産宣告前の原因によって生じたものとして財団債権に当たることは明白である。

したがって、本件国税債権が財団債権に当たることは明らかである。

(三) 右のとおり、本件国税債権が財団債権に当たることから、被告は、国税通則法基本通達五七条関係充当4(破産宣告があった場合の還付金等の充当)の規定に基づき、本件充当処分をしたものであり、同処分は適法である。

5  予備的請求原因3に対する反論

(一) 原告は、本件国税債権は破産法四七条にいう財団債権に該当せず、本件充当処分が破産法及び国税通則法基本通達五七条関係4に違反することは明白であり、また、本件充当処分によって、本件過少申告加算税が事実上優先的に配当された結果となったことにより、「一般の破産債権者に深刻な影響を与え」、「その瑕疵は極めて重大である」から、本件充当処分は無効である旨主張する。

(二) しかしながら、行政処分が無効であるというためには、処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大かつ明白な瑕疵が存することが必要であるとされている(最高裁昭和三六年三月七日第三小法廷判決・民集一五巻三号三八一頁)ところ、前記のとおり本件充当処分は適法に行われたものであり、そうでなくとも右処分に重大かつ明白な瑕疵は存しないのであるから、原告の主張は理由がない。

即ち、本件国税債権が財団債権に該当することについては、前記のとおりであって、原告の主張はそれ自体理由がないが、仮に、本件国税債権が財団債権に該当しないとしても、破産法四七条又は国税通則法基本通達五七条関係4は、本件過少申告加算税のごとき国税債権が財団債権に該当するか否かについて明定しておらず、本件充当処分が明らかに法に違反するとまではいえないのであるから、本件充当処分に重大かつ明白な瑕疵が存在し無効な処分であるとは到底いうことができない。

七  被告の主張に対する原告の認否・反論

1  予備的請求に対する本案前の主張について

予備的請求に係る訴えには確認の利益がないとの被告の主張は、破産財団を構成する財産を収集、獲得し、破産債権者に可能な限り多くの配当を実施するという破産管財人の職責を無視するものであって、失当である。

2  「六 被告の主張」について

(一) 同1(過少申告加算税の金額及びその計算根拠)のうち、本件修正申告により本件破産会社について過少申告加算税及びその基礎となるべき税額が存在するとの主張は、争う。

(二) 同2(本件課税処分の適法性)の(一)のうち、その主張の各工事が本件課税期間に係る課税仕入れに当たらないことは否認し、その余の事実経過は認める。

(三) 同2の(二)のうち、本件破産会社が原告のした本件修正申告により還付金の減少額二億三〇一一万一六〇〇円を国に納付すべきことが確定したとの主張は争う。還付金は、いかに減少しても還付金であり、「納付すべきことが確定」するということはありえない。

(四) 同2の(三)の主張は、一般論としては正しく、その限りで争わない。

(五) 同2の(四)の主張は争う。

(六) 同3(主位的請求原因に対する反論)の(一)の主張は争う。

(七) 同3の(二)の主張は争う。被告が正当な理由があると認めている二つの場合は、いずれも申告当時適法な申告であったものであり、これらの場合に秩序罰たる加算税を賦課すべきでないことは当然のことであって、国税通則法六五条四項がかかる当然のことを規定したにすぎないとは到底考えられない。現に所得税について従来示されていた行政解釈では、右二つの場合に加えて、「その他真にやむを得ない理由があると認められる場合」にも過少申告加算税を課さないこととされていたのである。したがって、本件確定申告に誤りがあったとしても、その当時の申告者の立場、そのような申告に至った事情を具体的に勘案して、「正当な理由」の有無を判断すべきである。

(八) 同3の(三)のうち、本件修正申告の際、原告側に税理士が関与していたことは認めるが、その余は否認し争う。

(九) 同4(本件充当処分の適法性)及び同5(予備的請求原因3に対する反論)の主張は争う。

被告は、本件国税債権が財団債権に当たるか否かは本税たる租税債権が財団債権性を有するかどうかにかかるとして、最高裁の判例を引用している。しかし、本税たる租税債権が財団債権性を有するということは、破産法四七条二項が「国税徴収法……ニ依リ徴収スルコトヲ得ヘキ請求権」と規定していることからも分かるように、公権力を発動し、強制的に請求権を実現できる場合をいうのであって、具体的手続としていえば、破産財団に対し租税の支払いを求めて交付要求の手続をし、現実に管財人が他の債権者に優先してこの支払いをする場合をいうのである。しかし、被告が本税として主張する「本件修正申告により納付すべきこととなった税額」は、単に還付金の修正のため記載した観念上、計算上の数額に過ぎず、被告が財団に交付要求することもできないのは勿論、現実の支払いを求めることもできないことは明らかである。したがって、被告のいう「本件修正申告により納付すべきこととなった税額」は、いかなる意味においても財団債権性を有する本税たる租税債権たり得ないものである。

第三証拠関係

本件記録の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第一主位的請求について

一  主位的請求請求原因1ないし4の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件課税処分の適否について、判断する。

1  「納付すべき税額」について

(一) 本件課税処分が国税通則法六五条の規定に基づくものであることは、当事者間に争いがないところ、同条一項は、「期限内申告書(還付請求申告書を含む。……)が提出された場合……において、修正申告書の提出……があったときは、当該納税者に対し、その修正申告……に基づき第三十五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に百分の十の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する」と規定している。そして、同法三五条は申告納税方式による国税等の納付に関する規定であるところ、その二項は、「次の各号に掲げる金額に相当する国税の納税者は、その国税を当該各号に掲げる日……までに国に納付しなければならない」と規定し、その一号において、「修正申告書に記載した第十九条第四項第三号(修正申告により納付すべき税額)に掲げる金額(その修正申告書の提出により納付すべき税額が新たにあることとなった場合には、当該納付すべき税額)」については、その納期限を「その……修正申告書を提出した日」と規定している。更に、同法一九条は修正申告に関する規定であるところ、その四項は、「修正申告書には、次に掲げる事項を記載し……なければならない」と規定し、その三号では、「その申告に係る次に掲げる金額」として、「イ」の「その申告前の納付すべき税額がその申告により増加するときは、その増加する部分の税額」に続き、「ロ」として、「その申告前の還付金の額に相当する税額がその申告により減少するときは、その減少する部分の税額」と規定している。

(二) 原告は、同法六五条一項、三五条二項の規定から、過少申告加算税を賦課することができるのは、納付すべき税額が存在する場合に限られ、同法一九条四項三号もその限度で意味を有するにすぎず、本件のように修正申告によって還付金の額が減少するにすぎないときは、これを課すことはできない旨主張する。

しかし、国税通則法六五条一項、三五条二項及び一九条四項三号の各規定をみれば、同法が、単に納付すべき税額が増加する場合に限らず、還付金の額に相当する税額が修正申告により減少するにすぎないときであっても、その減少する部分の税額について、過少申告加算税の賦課の対象とする趣旨であることは、文理上明らかである。このことは、同法六五条四項が、修正申告によって還付金の額に相当する税額が減少する場合についても、正当な理由があれば過少申告加算税を課さない旨を規定していることからも裏付けられるところである。

もっとも、国税通則法五六条一項は、「国税局長、税務所長又は税関長は、還付金……があるときは、遅滞なく、金銭で還付しなければならない」と規定しているにもかかわらず、本件においては、原告が本件確定申告において還付請求した控除不足還付税額二億六〇〇五万〇四五五円は、被告の税務調査の結果課税仕入れの要件を欠くものと判断され、現実には還付されず、本件破産会社が還付金を返還(納付)しなければならない事態には至らなかったことは、当事者間に争いがない。しかし、そうであっても、前記同法の各規定に照らせば、本件確定申告に掲げられた控除不足還付税額二億六〇〇五万〇四五五円と本件修正申告に掲げられた同税額二九九三万八八〇五円との差額二億三〇一一万一六〇〇円が、同法六五条一項に規定する「第三十五条第二項の規定により納付すべき税額」となるものであり、同法は、「納付すべき税額」の用語を必ずしも実際に出捐行為を伴うものに限定して使用しているわけではない(なお、同法の規定する「納付すべき税額」の意味は、被告の主張3・(一)・(3)のとおりであると解される)。要するに、同法一九条四項三号ロが「その申告前の還付金の額に相当する税額がその申告により減少するときは、その減少する部分の税額」を修正申告書に記載すべきものとし、同法三五条二項が修正申告書に記載した同法一九条四項三号に掲げる金額(修正申告書により納付すべき税額)を国に納付すべきことを定めているから、この点につき、還付金の還付がなされなかった場合についてはこれを除外する旨の規定が設けられていない以上、本件のような場合であっても、過小申告加算税賦課の対象になるものと解すべきである。したがって、この点に関する原告の主張は、採用することができない。

(三) 原告は、過小申告加算税制度の趣旨やその実質的意味から、還付金の額が減少したにすぎない本件のような場合にまで、過少申告加算税を賦課すべきでない旨主張する。しかし、過少申告加算税は、申告納税方式による国税の確定手続において、適正な申告をしない納税者に対して一定の制裁を加え、その申告秩序の維持を図ろうとするものであり、国税通則法が、過少な税額を申告する場合(納付申告)に限らず、過大な還付金(還付金の額に相当する税額)を申告する場合(還付申告)にも、過少申告加算税を賦課する趣旨であることは前記のとおりである。このように、納付申告・還付申告の区別なく、同法がこれらを過少申告加算税の対象としているということは、申告書に過誤がある点において、納付申告と還付申告との間に質的な差を認めていないということであるから、原告の主張は採用の限りでない。

2  「正当な理由」の有無について

(一) 国税通則法六五条四項は、「第一項または第二項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となつた事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかつたことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、これらの規定を適用する」と定めているところ、原告は、本件確定申告をするについて、還付金を過大に申告したことには「正当な理由」がある旨主張する。

(二) 原告が本件確定申告において、本件破産会社が建設を進めていた茨城カントリークラブの造成工事及びクラブハウス建築工事につき熊谷組に支払った七三億一三〇〇万円及び同造園工事につき生駒植木に支払った五億八七五〇万円はいずれも本件課税期間に係る課税仕入れに当たるとして、右合計額に係る消費税額二億三〇一一万一六五〇円を仕入れに係る控除税額に含めて計算したことは、当事者間に争いがない。

消費税法三〇条一項は、「事業者……が、国内において課税仕入れを行つた場合……には、当該課税仕入れを行つた日……の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額……の合計額を控除する」と規定している。そして、右「課税仕入れ」の意義につき、同法二条一項一二号は、「事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供……を受けること……をいう」としている。これらの規定並びに消費税法の趣旨を勘案すれば、物の引き渡しを要する請負契約の注文主が課税仕入れがあったとしてその工事代金につき所定の消費税額を控除することができるのは、工事の目的物(成果品)の引き渡しを受けたときであると解するのが相当である。

(三) ところで<証拠略>によれば、本件破産会社は、建設を進めていた茨城カントリークラブの造成工事及びクラブハウス建築工事につき熊谷組と、またその造園等工事につき生駒植木とそれぞれ請負契約を締結していたこと(以下、これらの工事を「本件各工事」という)、熊谷組との請負契約では、工事の請負残代金は、工事の完成引渡と同時に支払われる旨定められており、生駒植木との契約もほぼ同旨であったこと、本件破産会社が破産宣告を受けた平成三年一〇月二九日(本件課税期間の最終日)段階においては、熊谷組が受注した工事の進捗状況は九十数パーセントであり、完成直前であったが、未だ完成しておらず、工事代金も約六割が未払いであったこと、生駒植木の受注工事についても、植栽工事及び造園工事の一部が未完成であり、工事代金もその一部が未払いであるうえ、枯保証の問題が解決していなかったことから、工事の引き渡しは行われていなかったことが認められる。

以上の事実によれば、本件各工事の目的物(成果品)は、いずれも平成三年一〇月二九日の時点では未だ引き渡しはなされていないといわなければならないから、本件破産会社が本件各工事について支出した代金については、本件課税期間において、消費税法三〇条一項所定の消費税額控除の適用は、これを受けることができないものであったというべきである。

(四) <証拠略>によれば、原告は、本件破産会社の破産管財人に就任した後、直ちにその財務内容を把握するため、その調査と財務諸表の作成を協和監査法人に依頼したこと、同監査法人は、本件破産会社が確定申告の時期を迎えたことから、その申告手続も担当することとなったが、税理士の資格も有する同監査法人の代表者秦幸吉公認会計士は、財務内容の調査によって本件各工事につき工事代金の支出があることを知り、熊谷組との請負契約書や代金の支払状況等から、工事の引き渡しの有無については疑問を抱いたものの、引き渡しが終わっていれば、消費税の還付を受けられることから、どのように処理すべきかにつき原告の指示を仰いだこと、原告は、本件各工事が完全には完成していないことを知っていたが、破産宣告によって本件各工事が施工されているゴルフ場が破産管財人である自分の占有下に移っていることから、工事の対象物も破産宣告と同時に破産管財人に引き渡されたものと理解し、秦公認会計士に、工事の引き渡しは終わっているので消費税の還付請求をするように指示したこと、秦公認会計士は、原告の指示に従い、本件各工事の引き渡しの有無について更に調査を尽くすことなく、本件各工事につき支出された代金の合計額に係る消費税額二億三〇一一万一六五〇円を本件課税期間の課税仕入れに係る控除税額に含めて計算して本件確定申告書を作成し、原告はこれを被告に提出したことが認められる。

(五) 右事実によれば、原告が、本件確定申告において、本件各工事の代金を本件課税期間に係る課税仕入れに当たると判断した最大の理由は、破産宣告によって当然に本件各工事の目的物(成果品)も原告に引き渡されたものと理解したことにあるということができる。しかし、破産管財人は、破産者の所有占有する全ての財産を引き継いでこれを管理占有するのは当然であるけれども、破産者自身が所有占有しない財産までも管理占有することはできないことはいうまでもないことである。これを本件についてみれば、本件破産会社が建設を進めていたゴルフ場の敷地は、破産宣告によって破産管財人たる原告の管理占有に帰したとしても、本件各工事の目的物(成果品)については、破産宣告前に本件破産会社に引き渡されていない限り、当然には原告がその占有を取得する謂われはないのである。このことは、破産宣告前に裁判所から保全処分(但し、<証拠略>によれば、同保全処分の債務者は本件破産会社であり、対象物も土地だけであって、熊谷組や生駒植木は相手方になっていないことが認められる)が発せられ、ゴルフ場が執行官の保管となり、原告がこれを承継したとしても、また、原告が破産宣告日に現地において、ゴルフ場敷地、同敷地上の建物及び所在物件一切が原告の占有に帰したことを公示し、これに工事関係者から格別の異議がなかったとしても、変わるものではない。以上のことからすれば、原告は、破産宣告による財産の占有移転について、判断を誤ったものという他ない。

(六) 原告は、本件破産会社の破産事件が特殊、大型のものであり、実体を把握するのに極めて困難な事情のあったことを主張するところ、なるほど、<証拠略>によれば、本件破産会社の破産事件は、負債総額一二〇〇億円余で、債権者総数五万人余という大型のものであったこと、しかも、同事件は、債権者からの申立てによるものであったことから、事実関係や財務内容を調査するについて、本件破産会社の関係者の協力を得ることは容易でなく、また、本件破産会社の会計帳簿書類の一部は、法人税法違反の容疑で国税当局等に押収されており、これらの閲覧申請は可能であったものの、財務内容の把握とその裏付調査は困難を極めたことが認められる。

しかし、そうであるとしても、前掲の各証拠によれば、原告や秦公認会計士の手持ちの資料の中には、同人らにおいて、本件各工事の代金が本件課税期間の課税仕入れに当たると積極的に判断しうる書類等(例えば、引渡証など)は存在していなかったことが認められるのであり、むしろ、前記のとおり、原告は、本件各工事が完全には完成していないことを承知しており、秦公認会計士も、熊谷組や生駒植木との請負契約書や代金の支払状況等から、工事の引き渡しの有無については疑問を抱くなど、通常なら課税仕入れに当たらないと判断すべき状況下にあったのである。また、還付金等に係る国に対する請求権は、法定申告期限を経過しても、五年間の消滅時効にかからない限り、何時でもこれを行使することが可能であるから(国税通則法七四条一項)、ことさらに還付請求を急ぐ必要性もなかったのである。然るに、原告が前記工事代金を課税仕入れに当たるとして申告したのは、前記のとおり、原告が破産宣告によって本件各工事の目的物(成果品)の引き渡しがあったと判断したことによるものであり、果たしてそうであるとすれば、原告が本件各工事につき支出された代金を本件課税期間の課税仕入れに当たるとして、その所定の消費税額を控除税額に含めて計算したことには過失があり、そのような計算をするについて、国税通則法六五条四項に定める「正当な理由」があるということはできない。

3  「信義則違反」について

(一) 原告は、被告所部係官の対応から、被告が本件課税処分をしたのは信義誠実の原則に違反する旨主張する。

主位的請求原因7・(一)の事実並びに被告所部係官が原告に修正申告を慫慂した際、その申告後に過小申告加算税が賦課される旨の説明をしなかったことは、当事者間に争いがない。

(二) 原告本人尋問の結果によれば、本件過少申告加算税の賦課は、原告の全く予期しないところであったことが認められる。しかし、税務当局の行政指導(修正申告の慫慂)に応じて修正申告をした者に対し過少申告加算税を賦課したとしても、他に特段の事情のない限り、それをもって信義則に反するものということはできない。また、被告所部係官が修正申告を慫慂した際、申告後に過少申告加算税が賦課される旨の説明をしなかったとしても、係官に法律上そのような説明義務があるということはできないから、右説明不足をもって、信義則違反を認めるべき特段の事情があるものということもできない。むしろ、<証拠略>によれば、被告所部係官の蔀義男上席国税調査官が平成四年三月五日原告に対し修正申告を慫慂した際、その場には、秦公認会計士と平塚税理士が同席していたことが認められるのであるから、原告側としては、当然修正申告後の事態を想定すべきであり、少なくとも過少申告加算税賦課の可能性について質問することはできた筈である。

<証拠略>によれば、原告と被告所部係官との会見では、修正申告をしても、減額修正に係る部分については将来工事の引き渡しのあった時点で申告すれば還付を受けられ、減額修正以外の他の還付金についてはその年度において還付を受けられることが、当然の前提になっていたことが認められるところ、被告が本件過少申告加算税を本件修正申告によっても本件破産会社が還付を受けられる筈の還付金に充当し、その結果として、原告が右還付金の交付を受けられなくなったことは、当事者間に争いがない。原告は、このことを捉えて、本件過少申告加算税を賦課するのはその分本件破産会社が受け得る還付金の額が減少するのと同じ結果を招き、係官の説明と矛盾し、原告の信頼を裏切るものと主張する。しかし、本件修正申告によって減額された以外の還付金は現実に還付の対象となったのであるから、この点において被告に非違があったということができないのは勿論である。また、本件過少申告加算税を右還付金に充当した結果、本件破産会社が受け得る還付金の額が減少するのはやむを得ないことであり、本件課税処分がその適用要件を具備している限り、本件過少申告加算税を賦課することが還付金に関する原告の信頼を裏切るものということはできない。なお、本件修正申告による減額修正の部分が、後にその工事の目的物(成果品)が引き渡された段階で還付請求の対象になるのは当然であり、被告もそのことを否定するものではないから、この点においても原告の信頼が裏切られたということもない。

(三) よって、本件課税処分が信義則に違反するとの原告の主張は採用することができない。

三  以上のとおりであるから、本件課税処分に原告主張の違法はなく、本件修正申告により納付すべき税額二億三〇一一万円(但し、国税通則法一一八条三項に規定に基づき一万円未満の端数切捨て後のもの)を基礎に、同法六五条一、二項の規定により三四四九万一五〇〇円の過少申告加算税を賦課した本件課税処分は、適法であると認められる。

第二予備的請求について

一  被告の本案前の答弁について

1  原告の予備的請求は、本件過少申告加算税である本件国税債権は財団債権に該当しないにもかかわらず、被告が、破産手続によらないで、本件破産会社の還付を受けることのできた還付金を本件過少申告加算税に充当した本件充当処分は無効であるとして、その無効確認を求めるものである。

これに対し、被告は、仮に本件充当処分が無効であったとしても、本件過少申告加算税が消滅するわけではなく、国が本件破産会社に対し本件国税債権を有するという法律関係は何ら変動するものではないから、原告の予備的請求が認容されても、本件破産会社や原告自身には法的に何らの利益も生じないとして、右予備的請求に係る訴えの却下を求めている。

2  しかし、本件充当処分が無効と判断されれば、本件充当処分の対象となった還付金は本件破産会社の破産財団に組み入れられ、その結果として、破産債権者はより多くの配当を受けることが可能となるのであるから、破産債権者にとっては、本件充当処分が有効か否かは、配当額に影響する重大な問題である。そして、破産管財人は、法律の定めるところに従い、できうる限り破産財団に属する財産を発見・収集して換価したうえ、これを破産債権者に平等に分配する職責を有するものであるから、本件充当処分の有効性の有無の確認は、破産管財人たる原告にとっても、法的利益があるものというべきである。

したがって、本件充当処分の無効確認を求める予備的請求を不適法な訴えということはできず、被告の本案前の答弁は失当である。

二  予備的請求原因1の事実は、主位的請求原因1ないし4の事実と同一であるが、これらの事実が当事者間に争いのないことは、前記のとおりである。また、予備的請求原因2の事実も当事者間に争いがない。

三  本件充当処分の有効性について

1  前記のとおり、原告が本件充当処分を無効とする理由は、本件国税債権が財団債権に当たらないというものである。そして、本件国税債権が財団債権に当たらないのは、本件過少申告加算税を賦課した本件課税処分が破産宣告後の申告に対するものであって、本件国税債権は破産宣告後の原因に基づく請求権であるうえ、破産財団に関して生じたものではないからであると主張する。

2  ところで、破産法四七条二号は、「国税徴収法又ハ国税徴収ノ例ニ依リ徴収スルコトヲ得ヘキ請求権」を財団債権と規定するが、その但書で「破産宣告後ノ原因ニ基ク請求権ハ破産財団ニ関シテ生シタルモノニ限ル」としている。しかし、本件国税債権が「国税徴収法又ハ国税徴収ノ例ニ依リ徴収スルコトヲ得ヘキ請求権」に該当することは明らかであるけれども、過少申告加算税は本税たる租税債権に附帯して生ずるものであることから、本件国税債権が財団債権であるかどうかは、その本税たる国税債権が財団債権性を有するかどうかによって判断されるべきである。即ち、本件過少申告加算税の本税たる国税債権が財団債権であれば、本件国税債権もまた財団債権であると解すべきである。

3  然るところ、本件過少申告加算税の本税は、前記のとおり、本件修正申告により本件破産会社が納付すべきこととなった税(二億三〇一一万一六〇〇円)である。そして、本件確定申告及び本件修正申告はいずれも本件破産会社の破産宣告後のものであるけれども、その各申告の対象は破産宣告前の本件課税期間の租税に係るものである。そうだとすれば、右の「本件修正申告により納付すべきこととなった税」たる国税債権は、破産宣告前の原因に基づく請求権であるといわなければならない。

4  次に、これが「国税徴収法又ハ国税徴収ノ例ニ依リ徴収スルコトヲ得ヘキ請求権」に該当するかどうかが問題となるが、原告は、被告のいう「本件修正申告により納付すべきこととなった税額」は単に還付金の修正のために記載した観念上、計算上の数額に過ぎず、被告はこれを破産財団に交付要求等をすることができないから、右税は「国税徴収法又ハ国税徴収ノ例ニ依リ徴収スルコトヲ得ヘキ請求権」ではないと主張する。しかし、この主張は、原告が主位的請求原因で主張した「納付すべき税額」が存在しないということと実質的に異ならないものである。前記認定のとおり、「本件修正申告により納付すべきこととなった税」は、消費税に係わる国税通則法三五条二項の規定により納付すべき国税であり、これには当然国税徴収法が適用されるものと解される。けだし、国税徴収法は、関税、とん税及び特別とん税以外の国税の滞納処分その他の徴収に関する手続の執行について定めているからである。これを還付税額が減少する場合について見ると、確定申告に基づき還付金が実際に還付され、後に修正申告又は更正によって右還付金の額に相当する税額が減少し、その部分を返還(納付)すべき義務が生じた場合、右返還(納付)すべき税に国税徴収法が適用されることは当然である。問題は、本件のように還付金が実際に還付されない段階で修正申告又は更正によって還付金の額に相当する税額が減少した場合であるが、前に説示したとおり、国税通則法は、この場合と前者の場合と区別することなく、同法三五条二項の規定により納付すべき税額が存在するものとして、納期限を定めるとともに、過少申告加算税を賦課することとしており、国税徴収法も特に両者を区別する規定は設けていない。したがって、なるほど還付金の還付がなされていない後者の場合には、国税徴収法を実際に適用する余地はないかも知れないが、それは、たまたま還付金の還付が遅れていたという偶然の結果(本件においては、被告の調査によって原告の申告した課税仕入れが実体を欠くものと判断され、還付金の還付が留保されたが、これも被告の税務調査という偶然の出来事が介在した結果には変わりがない)から、そのようになるにすぎないのであって、同法は、一般的抽象的には、こうした場合を含む納付すべき国税をその適用対象にしていると解すべきである。また、破産法四七条二号の関係でいえば、当該過少申告加算税が財団債権か否かを認定する前提として、その本税たる国税債権の財団債権性を考える場合、現実に出捐を伴う納付(返還)行為の有無によってその財団債権性を区別すべき合理的理由は見当たらないというべきである。したがって、本件過少申告加算税の本税たる国税債権は財団債権であると認められる。

5  そうであるとすれば、本税たる国税債権が財団債権である以上、本件国税債権も財団債権というべきであり、本件国税債権が財団債権でないとして、本件充当処分の無効をいう原告の主張は採用することはできず、他に本件充当処分を無効とすべき点はこれを認めることができない。

四  よって、本件充当処分の無効確認を求める予備的請求も理由がない。

第三結論

以上のとおりであって、原告の請求は主位的、予備的のいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 川崎和夫 山崎勉 矢数昌雄)

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